杖道には「繰付(くりつけ)」というシブい技がある。
相手が脳天を割り込もうと切りつけてくる太刀を、ひらりと避け、杖で捕らえ、そのまま体勢を崩して制圧する。まるで合気道のような体術的要素があり、私はこの技が結構気に入っている。「無手(素手)」に通じる奥深さを感じて、密かに悦に入っていたのだ。
しかし先日、そんな私の自己満足は粉砕された。
先生による「引提(ひきさげ)」の繰付動作へのダメ出しである。
一度や二度ではない。怒涛のダメ出しラッシュ。
「違う」「そうじゃない」「あーもう全然ダメ」
最終的には何がどうダメなのかすら分からず、立ち尽くす私に先生は言い放った。
「不合格だ。ちゃんと教本を読め!」
不合格……! 四段なのに不合格!
私は慌てて、バイブルである教本を紐解いた。
先生が言うような「手の内の作用」や「絶妙な重心移動」、「神がかったタイミング」について、きっと答えが書いてあるはずだ。
……書いてない。
一行も、書いてない。
いや、書いてないんかーい!
呆然とする私に、先生はさらに追い討ちをかけるような講釈を垂れた。
「他の皆は趣味でやっているから、皆とやかく言わない。」
そして、こう続けた。
「でも言われないとね、そのうち落ちこぼれるんだよ」
……えっ? その言い方。
まるで、私がその「落ちこぼれ」みたいじゃないですか。
まあ、そうかもしれませんけどね。
ただ、私に言わせれば、どうせ皆、どんぐりの背比べだ。
五十歩百歩の中で、あーだこーだとやっているに過ぎない。
だったら、マイペースで楽しく稽古すれば良いのだ。
先生の言葉はなかなか含蓄があるようでいて、絶妙にトンチンカンである。
だが、ここで腐っては男がすたる。
稽古するのは私。結果を出すのも私。そして何より、この理不尽さえも楽しむのが私だ。
「不合格」の烙印を胸に、私は海よりも広い「許す心」で、今日も淡々と教本に載っていない動きを稽古するのである。


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